明らかに間違いで、ある一定の倒産確率と回収率が見込まれているのであれば、統計的に設定金利を算出して分散投資によって収益を上げることは可能なのです。
むしろそれは株式の上昇に賭けるよりも、より科学的な方法で収益を上げる確実な方法と言えるでしょう。
日本の金融システムはこの点を見過ごしてしまったように思います。
よく批判される、貸借における日本の担保主義は、すべての案件で損が出ないようにするために工夫されたシステムです。
個別の倒産確率の想定は行うでしょうが、もし相手が倒産したときには貸した元本を取り返せるように担保を万全に取っておけば、確率など問題ではありません。
すべての案件で確実性が見込めるのであれば、分散投資など必要がなくなります。
先に説明したのは、倒産する可能性を含む運用は、分散することによって確実な収益性を獲得するということでした。
無担保のケースが多い債券の運用の世界では、これは当たり前です。
実は、お金を貸すという銀行ビジネスにおいても本質は同じだったはずですが、すべての案件に担保による確実性を求めたことから分散の必要性がなくなり、集中的な大口融資が容易になったのです。
こうした事実を単なる結果論だと言う人がいるかもしれません。
しかし、深刻なのは、そうしたことの結果、無担保で不確実性が含まれる貸付の世界でどういう金利でお金を貸せばいいのか、銀行にノウ八ウの蓄積が行われなかったことです。
どうしたら銀行が収益を上げられるビジネスに転換できるかどうか分からない、借りる側から言えば、銀行からどういう金利でお金を借りられるのか分からない、という極めて脆弱な金融インフラの姿が浮かび上がってきます。
もうお分かりのように、これも金融取引の「価格」、あるいは「値札」の問題です。
有価証券である債券と同じように、銀行が融資する際に相手の「信用リスク」に応じた金利設定が行われなければ、ビジネスとして成立しません。
これは結果として、借りる方のモラルハザードにもつながります。
ここ数年相次いだゼネコン、流通企業向けの貸出の一○○○億円単位の債権放棄、債務カットは、たとえ借り手側の経営者が交代したとしてもモラルバザードであることは明らかです。
前項で少し格付けに触れましたが、これは皆さんがすでにお馴染みのAAAとかAAという記号で表される、企業や国の信用リスクの度合いです。
国にも格付けがあります。
国債が暴落しそうだ、という記事を最近良く見かけますが、これは格付けがどんどん下がる、つまり日本がデフォルトする(債務を弁済できなくなる、国債の元本償還ができなくなる)可能性が高くなっている、という意味です。
私はそう簡単に日本がデフォルトするとは思いませんが、マーケットのごく一部にはそういう危険性を感じている人もいるようです。
なかには純粋な金利リスクと信用リスクを混同して国債価格を語っている人もいます。
こうした間違った雲告には注意する必要があります。
ここではそうした国債のデフォルト談義をするのが目的ではありません。
格付けとそれに応じた金利について説明をすることにしましょう。
そもそも取引相手を格付けするのは大変危険な仕事です。
特に格付け会社など、格付けを公表する立場にある会社はその影響力を考えると相当客観的な分析を要求される訳ですが、人を裁くのと同じでどういう価値観に基づいて格付けを決めるのかが重要なポイントになります。
格付け会社は海外のムーディーズ、S&P、フィッチーBCAなどが有名で、日本にも数社あります。
それぞれが独自の判断基準を持っていて、財務データをベースにする定量的分析と定性的な分析をミックスさせて格付けを決定しています。
格付けの結果は各社で同じとは限りません。
同一企業に異なる格付けが公表されることもあります。
場合によっては、格付けが投資適格と投資不適格という分類に分かれてしまうことがあります。
利用する側は判断に悩むことになります。
銀行を格付けする場合には、債務格付け、財務格付け、預金格付け、カウンターパーティ格付け、事業継続性格付けなどがあります。
いくつも種類があるため、金融のプロでも混乱しがちです。
格付けは本来、財務データを公表している上場企業が債券を発行するときに、投資家に会社の内容をよく理解してもらうために利用されるものです。
だから、債券を発行する会社が格付け会社に手数料を支払って格付けを取得するのです。
ところが最近では格付け会社が頼まれないのに格付けを行って公表する「勝手格付け」が増えてきました。
企業によっては迷惑だと感じるところもあるようです。
こうした格付けには問題がない訳ではありません。
企業あるいは国における財務内容の悪化のスピードに対し、格付けの変更(格下げ)が後手に回って遅すぎるという批判があります。
九七年のアジア危機の際、韓国、タイ、インドネシアなどの格下げが相次いで発表されましたが、市場での評価とは大きなギャップがありました。
最近では不正な会計操作が発覚して破綻した米国のエネルギー企業、エンロンや全米第二のスーパー、Kマートといった大企業の破綻を格付け会社が事前に見抜けませんでした。
日本でも事情は同じで、大成火災海上のように破綻前日までAという極めて高い格付けが付されていたケースもあります。
格付け判断の座標軸そのものに対しても批判や疑問の声があります。
実際に企業経営の経験がなく、それぞれのビジネス世界特有の事情を知らないまま、財務諸表だけで企業の絶対的な格付けをすることが果たして可能なのかどうか、という疑問です。
財務諸表はその会社の姿を立体的に表現しているとは言い切れません。
会社の実態は財務上の見てくれよりも良かったり悪かったりします(もっとも日本の場合は、後者の方が多いと指摘されています)。
また、国家が○○○○(大きすぎるものは潰せない)という戦略を取る場合、企業の格付けに大きく影響します。
格付けとはそもそも倒産確率の代替表現なので、こうした国家が民間に介入するときには、二通りの格付けが必要ではないかという考え方も出てきます。
そもそも企業構造(資本構造)の違う米国と日本で、企業の格付けの方法論が同じでいいのだろうかという疑問も生じます。
米国の大企業の株主はほとんどファンド(株式投信に似た運用形態)ですが、日本の場合は財閥などのグループ持ち合いがまだ大勢を占めています。
こうした疑問に対し、格付け会社は過去のケーススタディを通じて実際の格付けが一定期間後にどう変遷したか、実際にどれくらい倒産したかといった分析を公表して、格付けの有効性を論証しています。
世界中の多くの企業や機関投資家が格付け会社による格付けを利用しているのをみると、格付けという分類が金融の世界で重要な役割を演じているのは疑いのないところです。
格付け会社の格付けは非上場の企業には行われないので、銀行や保険会社などの金融機関では、融資に関して中小企業などを格付けする独自の格付けシステムを持っています。
その格付けは倒産確率に呼応するもので、格付けに対応する適正金利を計算するための重要な手掛かりになります。
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